もしPyro OGがpyroになり、見た目のとおり、DNAを色濃く残したまま、あの時代を通り抜けていたら。
その先で、Pyroはどこへ行っただろう。
現実のPyroがたどったのとは、まったく違う道を歩いたかもしれない。あるいは、遠回りをして、結局は同じ場所に着いたのかもしれない。
どちらなのかは、まだ誰も知らない。
この道には、まだ足跡が一つもないからだ。
次章で、その続きを描く。
HSPIN × At Design Lab
Distilled , not diluted
The legendary yoyo that changed history,
and the story of the road it never took.
2006年からの数年間は、メタルヨーヨーの黎明期であり、同時に壮大な試行錯誤の期間だった。
形状をどうするか。レスポンスに何を使うか。ベアリングはどの規格に落ち着くのか。
答えは、誰も持っていなかった。
毎月のように新しい形が現れ、試された。競技向けヨーヨーという製品が、たった数年のあいだに何度も定義され直した時代だ。
理由は単純だ。金属の塊は、どうしても重くなる。重いヨーヨーはよく回るが、動かしにくい。ならば直径を落として取り回しをよくしよう——多くのブランドが、同じ結論にたどり着いた。
2007年に世界大会でYoYoFactory 888が優勝を勝ち取ったのを皮切りに、アンダーサイズの流れは一気に本流になった。そして2010年前後には、直径52mm前後が「レギュラーサイズ」として定着していた。ベアリングやレスポンスの規格も、徐々に統一されていった。メタルヨーヨーのスタンダードが、徐々に固まりつつあった。
Pyroは、55mm。ベアリングはサイズD。
2005年にPyroが選んだこれらを、変わらず好んで回し続けるプレイヤーは多かった。ただ、シーン全体の流れは、Pyroが立っている場所とは少しずつ別の方向へ動いていた。
HSPINからリリースされた最後のPyro
Pyro Ⅲが守ったもの。
2011年、HSPINは3世代目のPyroを作る。それがPyro Ⅲ。
Chris本人は、当時の方針をこう語っている。「Pyroが持っていたものを保ったまま、ギャップまわりの技術を現代化しようとした」と。
実際、Pyro Ⅲはシェイプを変えていない。同じラウンドシェイプだ。象徴的なフレイムパターンも残っている。外から見たとき、それは疑いようもなくPyroだ。
Pyro Ⅲが守ったのは、Pyroの姿と、その精神だった。
変わったのは、中心だった。
ベアリングは、サイズDから大口径のサイズLへ。HSPINが6年間守り続けた規格を、ここで変更した。レスポンスパッドも、現代的なリングパッドへ。そして、直径は55mmから52mmへ。時代のスタンダードだった、あの52mmだ。
さらに、ギャップのエッジが大幅に下げられ、ローエッジの最新デザインになった。複雑なトリックに応えるために、ローエッジは当時のヨーヨーにとって当たり前のデザインになりつつあった。
Pyro Ⅲは、Pyroの姿を保ったまま、内側を最新の設計に入れ替えて、時代の真ん中に着地した。
そして、これがHSPINからリリースされた最後のPyroになった。
Pyro Ⅲは、正しい答えだった。
守るべきものを決め、そのために何を手放すかを決める。それはブランドオーナーにしかできない最も難しい仕事であり、Pyro Ⅲはその仕事をやり切った製品だ。
ただ、答えが一つだったとは限らない。
この数年で、ヨーヨーは小さく、軽くなった。HSPINはその変化に応えるために、PyroをPyro Lightを経てPyroⅢへと変えていった。
もし、もっとPyroのDNAを色濃く残したまま、同じ変化に応えていたら。
その答えは、どんな形をしていたのだろう?
New pyro
変えたのは、2箇所だけ。その問いに、At Design LabとHSPINで、もう一度向き合うことにした。2011年に出されなかったほうの答えを、今つくる。決めた方針は、一つだけだ。Pyroらしさを、最大限に残す。そのうえで、時代が求めたものにも応える。小さく、軽く。ストリングとの摩擦を減らし、現代のトリックに耐えられるだけの性能を持たせる。相反するこの二つを両立させるために選んだのは、最もシンプルな方法だった。オリジナルの図面から、大きく変えたのは2箇所。使い心地は、Pyro OGとまったく同じではない。それでも、これはまぎれもなくPyroだ。pyro——すべて小文字で表記しているのは、Pyroをそのまま小さくしたからだ。
pyroは、Pyro OGの図面を、そのまま小さくした。
55mm → 52.0mm。
ボディのデザインには、まったく手を加えていない。キャッチゾーンのカーブも、リムの肉厚も、2005年のままだ。比率は一切変わっていない。本当に、ただ小さくしただけだ。
幅44mm、重量61g。
これらは選んだ数字ではない。55mmを52.0mmにしたときに、自然とそうなった数字だ。等倍で縮めれば、体積は縮尺の三乗で落ちる。軽くするために削ったのではなく、小さくしたから軽くなった。
だから、Pyroが持っていた重量配分の比率が、そっくりそのまま小さな体の中に入っている。手に取ったとき、大きさの割に詰まっている感覚があるとすれば、それは錯覚ではない。
何も抜かず、何も足さずに、Pyroだけを小さくする。これを私たちはDISTILLEDと呼ぶ。
もう1箇所は、シュムーブドリングだ。
ギャップの脇にある二段目の窪みと、それを囲むリング。外からはほとんど見えない、Pyro
OGの内側の造形が進化したもの。
pyroは、これをPyro OGより大きくした。
現代のヨーヨーでは、複雑なトリックの最中にストリングとボディが触れて起きるスリープロスを抑えるため、エッジを下げるのが当たり前になっていた。一方でPyro OGはハイウォールと呼ばれるデザインで、ストリングとエッジの摩擦抵抗が大きい。
Pyro OGの使い心地を残したまま、この摩擦を抑える。そのために、シュムーブドリングを大きくした。
さらに、ギャップも当時のヨーヨーと同等の広さまで確保した。
外形には一切触れていない。それでいて、Pyro OGが持っていた形と、手に馴染む感覚を残しながら、現代のトリックに応えられるところまでパフォーマンスを引き上げている。
Pyroが小さくなったなら、色も同じだけ凝縮するはずだ。
Pyro OGの赤は、炎の赤だった。明るく、外へ向かって燃えている赤だ。
その赤を、形と同じ比率で縮めていく。
すると、燃えるような明るさは沈み、より深いところへ落ちていった。たどり着いたのが、ワインレッドに近い深度だ。
色を変えたのではない。
形がDISTILLEDされたから、色もDISTILLEDされた。
結果として現れたこの深い赤は、pyroがPyroから何も失っていないことの、一番わかりやすい証拠になっている。
もしPyro OGがpyroになり、見た目のとおり、DNAを色濃く残したまま、あの時代を通り抜けていたら。
その先で、Pyroはどこへ行っただろう。
現実のPyroがたどったのとは、まったく違う道を歩いたかもしれない。あるいは、遠回りをして、結局は同じ場所に着いたのかもしれない。
どちらなのかは、まだ誰も知らない。
この道には、まだ足跡が一つもないからだ。
次章で、その続きを描く。