HSPIN × At Design Lab

Distilled , not diluted

The legendary yoyo that changed history,
and the story of the road it never took.

誰も答えを持ってなかった

2005年12月、Pyroが競技メタルヨーヨーの扉を開けた。
その先へ、世界中のブランドが一斉に走り出した。

2006年からの数年間は、メタルヨーヨーの黎明期であり、同時に壮大な試行錯誤の期間だった。
形状をどうするか。レスポンスに何を使うか。ベアリングはどの規格に落ち着くのか。
答えは、誰も持っていなかった。

毎月のように新しい形が現れ、試された。競技向けヨーヨーという製品が、たった数年のあいだに何度も定義され直した時代だ。

Pyroに届いたのは、称賛の声だけではなかった。

もう少し軽く。もう少し薄く。

71gという質量は、当時のプレイヤーの身体がまだ知らない重さだった。その手応えに惹かれる人がいた一方で、自分の手に馴染むまでに時間がかかるという声もあった。

HSPINの答えが、Pyro Lightだった。幅を約5mm、重量を約10g削った。

ここで重要なのは、HSPINが輪郭を描き直さなかったことだ。

Pyroの形はそのままに、そこから削った。答え方は、引き算だった。

この時点で、HSPINはまだPyroという図面の内側にいたのかもしれない。

小さくなっていく時代

そして、この数年間で、メタルヨーヨーには、はっきりとした流れが一つ生まれた。
小さく、軽くなっていった。

理由は単純だ。金属の塊は、どうしても重くなる。重いヨーヨーはよく回るが、動かしにくい。ならば直径を落として取り回しをよくしよう——多くのブランドが、同じ結論にたどり着いた。
2007年に世界大会でYoYoFactory 888が優勝を勝ち取ったのを皮切りに、アンダーサイズの流れは一気に本流になった。そして2010年前後には、直径52mm前後が「レギュラーサイズ」として定着していた。ベアリングやレスポンスの規格も、徐々に統一されていった。メタルヨーヨーのスタンダードが、徐々に固まりつつあった。
Pyroは、55mm。ベアリングはサイズD。
2005年にPyroが選んだこれらを、変わらず好んで回し続けるプレイヤーは多かった。ただ、シーン全体の流れは、Pyroが立っている場所とは少しずつ別の方向へ動いていた。

HSPINからリリースされた最後のPyro

 

Pyro Ⅲ

 

Pyro Ⅲが守ったもの。

2011年、HSPINは3世代目のPyroを作る。それがPyro Ⅲ。

Chris本人は、当時の方針をこう語っている。「Pyroが持っていたものを保ったまま、ギャップまわりの技術を現代化しようとした」と。

実際、Pyro Ⅲはシェイプを変えていない。同じラウンドシェイプだ。象徴的なフレイムパターンも残っている。外から見たとき、それは疑いようもなくPyroだ。

Pyro Ⅲが守ったのは、Pyroの姿と、その精神だった。

 

Pyro Ⅲが変えたもの

 

変わったのは、中心だった。

ベアリングは、サイズDから大口径のサイズLへ。HSPINが6年間守り続けた規格を、ここで変更した。レスポンスパッドも、現代的なリングパッドへ。そして、直径は55mmから52mmへ。時代のスタンダードだった、あの52mmだ。

さらに、ギャップのエッジが大幅に下げられ、ローエッジの最新デザインになった。複雑なトリックに応えるために、ローエッジは当時のヨーヨーにとって当たり前のデザインになりつつあった。

Pyro Ⅲは、Pyroの姿を保ったまま、内側を最新の設計に入れ替えて、時代の真ん中に着地した。

そして、これがHSPINからリリースされた最後のPyroになった。

 

もし、別のアプローチがあったとしたら

 

Pyro Ⅲは、正しい答えだった。

守るべきものを決め、そのために何を手放すかを決める。それはブランドオーナーにしかできない最も難しい仕事であり、Pyro Ⅲはその仕事をやり切った製品だ。

ただ、答えが一つだったとは限らない。

この数年で、ヨーヨーは小さく、軽くなった。HSPINはその変化に応えるために、PyroをPyro Lightを経てPyroⅢへと変えていった。

もし、もっとPyroのDNAを色濃く残したまま、同じ変化に応えていたら。

その答えは、どんな形をしていたのだろう?

New pyro

変えたのは、2箇所だけ。その問いに、At Design LabとHSPINで、もう一度向き合うことにした。2011年に出されなかったほうの答えを、今つくる。決めた方針は、一つだけだ。Pyroらしさを、最大限に残す。そのうえで、時代が求めたものにも応える。小さく、軽く。ストリングとの摩擦を減らし、現代のトリックに耐えられるだけの性能を持たせる。相反するこの二つを両立させるために選んだのは、最もシンプルな方法だった。オリジナルの図面から、大きく変えたのは2箇所。使い心地は、Pyro OGとまったく同じではない。それでも、これはまぎれもなくPyroだ。pyro——すべて小文字で表記しているのは、Pyroをそのまま小さくしたからだ。

Light, Small, New pyro

変えたのは、2箇所だけ。その問いに、At Design LabとHSPINで、もう一度向き合うことにした。2011年に出されなかったほうの答えを、今つくる。決めた方針は、一つだけだ。Pyroらしさを、最大限に残す。そのうえで、時代が求めたものにも応える。小さく、軽く。ストリングとの摩擦を減らし、現代のトリックに耐えられるだけの性能を持たせる。相反するこの二つを両立させるために選んだのは、最もシンプルな方法だった。オリジナルの図面から、大きく変えたのは2箇所。使い心地は、Pyro OGとまったく同じではない。それでも、これはまぎれもなくPyroだ。pyro——すべて小文字で表記しているのは、Pyroをそのまま小さくしたからだ。

 

SCALE

 

pyroは、Pyro OGの図面を、そのまま小さくした。

55mm → 52.0mm。

ボディのデザインには、まったく手を加えていない。キャッチゾーンのカーブも、リムの肉厚も、2005年のままだ。比率は一切変わっていない。本当に、ただ小さくしただけだ。

幅44mm、重量61g。

これらは選んだ数字ではない。55mmを52.0mmにしたときに、自然とそうなった数字だ。等倍で縮めれば、体積は縮尺の三乗で落ちる。軽くするために削ったのではなく、小さくしたから軽くなった。

だから、Pyroが持っていた重量配分の比率が、そっくりそのまま小さな体の中に入っている。手に取ったとき、大きさの割に詰まっている感覚があるとすれば、それは錯覚ではない。

何も抜かず、何も足さずに、Pyroだけを小さくする。これを私たちはDISTILLEDと呼ぶ。

 

Shmoved ring

 

もう1箇所は、シュムーブドリングだ。

ギャップの脇にある二段目の窪みと、それを囲むリング。外からはほとんど見えない、Pyro
OGの内側の造形が進化したもの。

pyroは、これをPyro OGより大きくした。

現代のヨーヨーでは、複雑なトリックの最中にストリングとボディが触れて起きるスリープロスを抑えるため、エッジを下げるのが当たり前になっていた。一方でPyro OGはハイウォールと呼ばれるデザインで、ストリングとエッジの摩擦抵抗が大きい。

Pyro OGの使い心地を残したまま、この摩擦を抑える。そのために、シュムーブドリングを大きくした。

さらに、ギャップも当時のヨーヨーと同等の広さまで確保した。

外形には一切触れていない。それでいて、Pyro OGが持っていた形と、手に馴染む感覚を残しながら、現代のトリックに応えられるところまでパフォーマンスを引き上げている。

 

Color

 

Pyroが小さくなったなら、色も同じだけ凝縮するはずだ。

Pyro OGの赤は、炎の赤だった。明るく、外へ向かって燃えている赤だ。

その赤を、形と同じ比率で縮めていく。

すると、燃えるような明るさは沈み、より深いところへ落ちていった。たどり着いたのが、ワインレッドに近い深度だ。

色を変えたのではない。

形がDISTILLEDされたから、色もDISTILLEDされた。

結果として現れたこの深い赤は、pyroがPyroから何も失っていないことの、一番わかりやすい証拠になっている。

02/Specifications
Diameter 52.0 mm
Width 44.0 mm
Weight 61 g
Material Aluminum
Bearing Double V-shape size D
Responce Ring pad

そして、これから

もしPyro OGがpyroになり、見た目のとおり、DNAを色濃く残したまま、あの時代を通り抜けていたら。

その先で、Pyroはどこへ行っただろう。

現実のPyroがたどったのとは、まったく違う道を歩いたかもしれない。あるいは、遠回りをして、結局は同じ場所に着いたのかもしれない。

どちらなのかは、まだ誰も知らない。

この道には、まだ足跡が一つもないからだ。

次章で、その続きを描く。